謀反の疑惑とともに頼家は世を去った。
実朝が鎌倉殿として政治の表舞台に立つ。
しかし実権を握っていたのは、執権 北条 時政。
(ドラマのプロローグより)
義時が泰時に小さな仏像を手渡した。
「これは頼朝様が亡くなったときに姉上からもらった。お前に渡したい」
「かように大事なものは、いただけません」
泰時は父の本心がわからない。
父がこれを持っていると心が痛むのだろうか。父が持っているべきなのだ。
泰時は心を痛めた。
時房が義時の子供たちと無邪気に遊んでいる。
「あの子たちは、いつ比奈さんが帰ってくるのかと思っています」
義時は、その言葉に心を痛めた。
実朝は御家人の前に正座している。
「鎌倉殿、本日より訴状の裁きに立ち会っていただきます」
義時が実朝に伝えた。
「仕切りは私たちがまとめるので、黙って見ていてください」
「ただ、座っているだけでいいのだ」
時政は笑顔で言い含めた。
八田 知家(はった ともいえ)が薙刀の術。
和田 義盛は弓の術。
大江 広元は政の心得。
三浦 義村は処世の全て。
「ゆっくり、焦らずにおやりなさい。鎌倉殿の面倒は、この爺の時政におまかせくだされ」
「どうですか、鎌倉殿の様子は」
政子は三善 康信に尋ねた。
「張り切ってやっております」
「和歌は、本当はそなたに見てもらいたいのです」
「これを、鎌倉殿の目につくところへ、さりげなくおいてください」
「私が渡すより、そっと気がつくところへ」
「大江殿から、おいそれと外には持ち出さぬよう言われたので」
政子は御所にある和歌集の写しを手渡した。
時政の前に家人たちが集まっている。
「甲斐の鷹の羽、鷲の羽でございます」
「これは良い矢ができる」
「こちらは利根川で獲れたばかりの鮎でございます」
「これはありがたい。りくの大好物じゃ」
「この度の裁きは、わしが仕切ってやる。まかせておけ」
家人たちからの捧げ物を受け取り、時政はご満悦の様子だ。
義時は、これを聞き時政に向かって、
「そのようなものは受けと取るべきでないのです」
「わしをたよって頼みにきたものを、受けてやる、どこが悪いのだ」
「だから、受け取ってはいけないのです!」
「御台所選びは、どうなりました」
「万事、つつがなく進んでおります」
源 実朝は後鳥羽上皇の従姉と結婚することが決まり、
そのことをりくは、大変喜んでいる。
「今こそ、京との関係を深める時です。うまくいけば鎌倉殿は帝の縁者」
「御台所を迎えに行く昌範は自慢の息子」
と、りくは手放しで喜んだ。
政子はこの話を聞いて、
「確かに御家人が朝廷から正室を迎えれば、また、争いが起こります。それでも良いのですか」
りくの入れ知恵もあり、時政が武蔵国に勢力を伸ばそうと動き始める。
「武蔵の武士ならば、わかっている。比企なきあと、ぽっかりと穴が空いてしまった。お主には武蔵守になってもらおう」
時政は、この願いを取り合わない。
「いや、私は総検校職の役目があります。身に余るお話ですが代々受け継いできた総検校職があります」
「そちらは遠慮してもらいたい。ご苦労様でした」
武蔵国総検校職を務める畠山 重忠は北条にこの地位を脅かされるのは屈辱以外の何ものではない。
「舅様、お一人で決めることではないのでは。体良く総検校職を奪い取るのでは」
重忠は義時に迫った。
「武蔵を脅かすことになれば、畠山は命懸けで抗うつもり。畠山と一戦を交えるつもりですか」
「誰もそんなことは言ってはおらん!」
義時の進言に時政は耳を貸さない。
鎌倉では実朝の結婚が決まり、正室を迎えるために北条 昌範が京に向かった。
「小四郎殿、婚姻についてお話が・・・」
二階堂 行政が尋ねた。
「奥方が去られてご不便を感じられているとのこと。わしの孫で(のえ)という、非の打ちどころのない孫がいる。
悪い話ではない。一度会ってみては。答えはその後でも」
「八田殿、会うのは御所の庭で語り合うことになっている。力を貸してくれ」
「俺に、見極めろというのか。わかった」
「御台所を迎えにくるのは、北条昌範と聞いた。その方は、おそらく父上に継いで執権別当になられるお方」
「あなたはご自分で執権別当になられるおつもりはないのか」
「あなたは本来鎌倉殿の座を狙える血筋。今は北条の言いなりになっている」
「上皇様は北条がお嫌いでね」
畳み掛けるように平賀 朝雅(ひらが ともまさ)にけしかけた。
「昌範様が鎌倉を離れている。例えば突然病に倒れて、あなたが御台所を鎌倉へお連れすれば・・・」
「京と鎌倉の仲は盤石になる」
「平賀 朝雅が執権になれば、鎌倉も動かしやすくなるというものよ」
後醍醐上皇は、言い放った。
「実朝を支えるのが京に近いも出なければ・・・」
「あとは、あの男にどれだけの度胸があるかだ」
「御所へ来られるのは、初めてですか」
義時はのえと御所の庭で語り始めた。
「小四郎殿は頼朝様に長くお仕えになられたのですか」
「興味があれば、いくらでもお話します」
「小四郎、非の打ち所がない。見栄えも悪くはない。お前が断ったら、俺が名乗りをあげたいくらいだ」
「裏にも別の顔があるかもしれない」
- 小四郎とは義時のこと。
知家の言葉に義時は迷っている。
11月になり昌範たちは京に入った。
「おつかれ様でした。今宵は酒宴を用意して入ります。旅の疲れを癒して頂きます」
しかし、昌範は京に着いて2日後に、急に病で倒れた。享年16歳。
急な病と言われるが、真偽は不明だ。
京からの便りを手にして、時政とりくは茫然とするだけだ。
「のえと申します。よろしくお願いします」
義時はたくさんのきのこを差し出した。
「きのこ、大好き。ありがとうございます」
のえは義時の家族の前で、丁寧に挨拶した。
「祖父から、いろいろ聞いております。辛いご決断を、たくさんしてきているのですね」
「それがわたしの勤めですから」
「気も滅入りますね。人の一生って一人で生きていくのは大変。
支えてくれる人がいた方が良いですね、絶対。ご迷惑でなければ、また来ます」
のえは、きのこの入った大きなざるを抱えて去って行った。
「のえさんを迎えるんですか?比奈さんがいなくなって、すぐに新しい人ですか」
泰時は父を責めた。
「二階堂に泣きつかれて・・・。子供たちも喜んでいる」
「そんな言い訳は、自業自得です」
「もう一度、いうてみよ」
静かに泰時に答えた。
「父上は、人の心はないのですか。元は言えば父上が酷いことをしたからです」
泰時は収まらない。
「鎌倉殿はもっと精の着くものを食べなくてはなりません。本日の武道はこれまで」
「わしの館で、うまいしし汁をつかわす」
和田 義盛は力づくで、実朝を誘った。
「御所を離れる訳にはいきません」
「内緒、内緒」
それを見ていた義時も一緒に出かけることになった。
「わしの獲った鹿じゃ。これが武士のしし汁じゃ」
「鎌倉殿もいつか腕を磨き、巻狩をいたしましょう」
実朝も、恐る恐るしし汁に手をつけた。
「鹿之助、ありがたく頂こう」
うまい表情でしし汁を楽しんだ。
時政は三浦 義村を呼んだ。
「畠山は、お前の爺様の仇。恨みがないわけがないな」
「それは、もう昔のことです」
「もし、畠山と戦うことになれば、お前はどっちに加勢する?」
しばらくの沈黙があり、
「決まっているでしょう」
(どちらにもにも解釈できるような答えだった)
実朝は御所に帰り、義時に一言
「楽しい夜だった。婚姻はどうなった」
「悩みました。決めてしまおうかと思います」
「わたしの結婚は。嫁とらねばならないか。後戻りはできないか?」
のえは女人を集めて楽しんでいる。
「小四郎に会ってきた。これ、持って行ってもいいよ。わたし、きのこ嫌いだから」
「これで、鎌倉殿の縁者ということ、は、は、は」
八田殿はのえを見抜けなかった。そして、のえはキノコが好きではなかった。
大丈夫かな、小四郎。
(つづく)
今回のゆかりの地は京都です。
【東洞院通】
平安京の東洞院大路に当たります。洞院とは上皇の居所を意味します。
名称 | 東洞院通(ひがしのとういんどおり) |
所在地 | 京都市の南北の通りの一つで、北の丸太町通りから南のJR東海道本線北に至ります。 |
【六角堂(頂法寺)】
北条 時政の娘婿・平賀 朝雅が京都守護として滞在していた館がこの付近にあったと言われています。
名称 | 六角堂(頂法寺) |
所在地 | 京都府京都市中京区堂之前町248 |
また次回もお楽しみに!