「江ノ電が走る音聴きながら、しらすと刺身とおでんを愉しむ。」
おでん好きと魚好きが高じてオープンした店。
以前は魚市場や加工用の水の販売営業をしていた波木井宏幸氏。老舗の和菓子屋みどりやさんが店をたたむと聞き、ここで店をやらせて欲しいと願い出た。生まれは横浜だが、鎌倉に移り住んで22年。鎌倉らしい江ノ電が通り、腰越漁港が近く、しらすや新鮮な魚が手に入るこの場所で商売がしたいという思いが通じ、おでんと新鮮な魚が自慢の店、鎌倉おでん波平を2015年にオープンした。
「もともとおでんが好きでいろいろな所のおでんを食べ歩きました。自分がいいと思う素材、大根などの鎌倉野菜、練り物などは逗子の方から仕入れて、なるべく地のものでおいしいおでんを作りたかったんです。羅臼の漁師さんから昆布を仕入れ、焼津の鰹節を仕入れ、鯵節、鯖節を使って天然出汁だけのおでんを作り上げました」
拘りに具材を使ったなんとも香り豊かな贅沢なおでんは、寒い季節は特に人気。
四季折々、鎌倉で獲れるおいしい魚を新鮮なうちに。
魚は主に腰越漁港の所属する後輩の漁師や坂ノ下の友達の漁師などから仕入れている。波木井氏と息子さんも釣りをするため、自分たちで釣った魚を提供することも多い。
「一番いい魚をお出ししたいので、うちは魚屋さんでは一切魚を買いません」と波木井氏。マグロは以前働いていた横浜中央卸売市場から仕入れているが、それ以外はできるだけ鎌倉の魚を使うことにこだわっている。
「冬場はなんと言っても寒ビラメですね。白身魚は一年中獲れるんですが、今の季節はホウボウがおいしいです。夏場はスズキ、イナダ、ワラサなどの青魚がおいしい時期もありますし、秋はやっぱりブリ系がいいですね。特に腰越は夏場、金アジが獲れるんですね。魚体がちょっと金色をしていて、湘南で一番と言われているアジなんです。これも提供しています」
市場で培った優れた目利きによって選ばれた四季折々の鎌倉の魚を味わうことができる波平。遠方からも新鮮な魚を食べにくるお客様もいるそうだ。
ぷりぷりのしらすが1年中食べられる、波平オリジナル製法。
そして波平といえば、しらす。以前、魚の鮮度を保つための加工用の水を魚の加工工場などに販売営業し、使い方の指導などを行なっていた波木井氏。
「しらすは魚へんに弱いと書くように、非常にデリケートな魚なんですね。これを冷凍して解凍後もぷりぷりのまま食べられるというのを実現したくて。加工法を探り、約1年半かかりましたが、おいしいしらすができあがりました」
さらに、ゆずの風味を1匹1匹に浸透させた、さっぱりと爽やかな味わいのしらすも完成。冷解凍しても生しらすと同じぷりぷり食感を楽しめるこの製法は波平オリジナル。今まで観光客の方々が鎌倉を訪れても、別名ドロメとも言われ、時間が経つとドロドロになってしまう生しらすは、現地でしかおいしく食べることができなかった。しかも本来、しらすは1月から3月の頭までは禁漁時期。漁が可能な期間も常に穫れるとは限らないため、せっかく来ても食べられないこともあった。しかしこの加工技術によって、おみやげとして自宅に持ち帰ることができ、1年中いつ来てもぷりぷりのしらすを食べることができるのだ。そして、今年2020年から鎌倉のふるさと納税返礼品としても提供されることが決まった。
鎌倉の魚を楽しむなら、しらすの3色丼と刺身定食がおすすめ。
「国内、海外を問わず、鎌倉に観光にいらした方に食べていただきたいのは、やはりしらす料理ですね」と波木井氏。ゆず味のしらす、釜揚げしらすを加えた3色丼は、異なる旨みを味わえる一品だ。漁師さんから直接仕入れる新鮮な魚を店主が自らさばく刺身も忘れてはならない。取材当日いただいた刺身定食の皿に盛られていたのは、ホウボウ、スズキ、寒ビラメ、サルエビ、マグロ、ヒラメとマコガレイと縁側の昆布締め、赤ナマコ、コハダ、アオリイカ、タコ、赤貝、生しらす。これにご飯とヒラメのあら汁、しらすのかき揚げ、おしんこ、鎌倉野菜のサラダが付いてくる。その日の仕入れによって魚は変わるが、これだけの種類を一度に食べられてなんと2,500円という驚きの価格。
「私自身、サーフィンもしますし、マリンスポーツが好きでダイビングもします。鎌倉は、海もあり山もあり本当に素晴らしいところ。ここ10年くらいで海もすごくきれいになりました」と鎌倉の海を愛する波木井氏。
海と魚を愛する飾らない波木井氏の人柄に触れながら、江ノ電の走る音をBGMに旨い魚で一杯。そんなオツな楽しみ方ができる店だ。